友人から、羊毛のプレゼント その1
2019.09.18 20:44|毛糸と私|
アイルランドには羊がたくさんいます。
その多くは食肉用で、羊農家さんが好んで飼育する羊の品種というのも、だいたい決まっているものです。残念ながら、これらの羊の毛は私たちが肌にまとうウール製品にはならないというのが一般的な認識です。アイルランドの食肉用羊の毛は短く、そもそも紡ぐのに不向きです。また、せっかく紡いで糸にしても肌触りはかたく場合によってはちくちくして、とてもじゃないけれどマフラーや帽子としては使えない、ということらしいのです。このようなウールは、昔はカーペット作りなどに使われ、今では家の断熱材やフィリングになっていると言われます。
こんなにたくさん羊はいるのに、ウール素材として使えないというのは実にもったいない。本当にだめなのかな。
5月下旬から6月上旬の季節になると、アイルランドでは一斉に羊の毛刈り作業が始まります。それまでもこもこしていた羊たちは、毛刈りを終えるとまるで一回り小さくなったみたい。身軽に牧草地を駆け回ります。
ときどき遊びに行っている、村のパブの音楽セッションのホストを務めるマークは農夫さんです。専門は肉牛ですが、ここ数年は羊も飼い始めたとのこと。私が手紡ぎをすることを誰かから聞いたのか、ある時から「今度はうちの羊の毛を持ってきてあげるよ」というのがあいさつ代わりになりました。
「ちなみになんの品種を飼ってるの?」と訊くと「サフォーク(Suffolk)だよ、肉用だからね」
うーん、サフォークか~。
今年の6月のはじめ、パブセッションのある水曜日のある午後のこと。今度はマークからテキストメッセージが入り、「エリカ、今夜セッションに来るんなら例の羊毛持っていくけど」とのこと。
アイルランドの肉食用羊のウール。紡げるのかな?実際のところ、肌触りは果たしてどんな感じなんだろう?
これは実験のチャンス。事実確認のチャンス。
「Yeah I'll see you tonight, thanks Mark.」とテキストメッセージを返して、ありがたくオファーを受けることにしました。
夜、いつも通りの音楽仲間とあいさつを交わし、いつも通りの音楽を一緒に演奏して、楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。セッションが終わると、マークは「よし、車の中にエリカへのプレゼントがあるから僕と一緒に来たまえ」と言って、「Come on」と促します。
「1匹分でいいって言ってたけど、2匹分あげる」
「バッグが大きいんだよね、車のトランクに入るかなあ」
「お、マークとエリカが闇取引してる」などと友人にからかわれながら、薄暗い街灯の下でマークの車から登場したのは超特大のプラスチックバッグ。私の小さな車のトランクに手でぎゅうぎゅうと詰めこみ、ほぼ無理やりふたを閉めて、どうにか搬入作業が完了。
「扱いやすいようにロール状に巻いておいたから」
「紡ぐのには毛が長い方がいいだろうと思ったから、なるべく長いのを選んでみたんだよ」
まあ、なんて優しい。
「本当にありがとう。どんなウールなのか私も楽しみだわ。毛糸になったら持ってくるから」
「いらないいらない!全部自分で楽しんでよ!」
帰宅したのは12時過ぎ。
夫のパットさんはとっくのとうに就寝、子どもたちももちろん夢の中です。トランクを開け、一人でバッグを取り出します。
2匹分の羊毛とは言え、お、お、重い~~~。
「ちょっと、神様、なんとかして」などと独り言を言いながら、ずっしりとしたバッグをやっとのことで家の中に引きずり入れました。これ、ミッドナイトにする仕事じゃないよね~。
そして翌日。待ち切れずに、昨夜運び入れたバッグの中身を覗いてみると・・・

わー!入ってる、入ってる!
そしてバッグを開けた途端に鼻をつく、この羊特有のにおい。でも待てよ。え~、よく見るとウールの感じも決して悪くないですよ。ラノリンという羊毛にもともとついている天然オイルも多すぎないし、ファイバーの細かさも部分的には上等に見えるではありませんか。
こ、これは、早く紡いで確かめたい!
それにしてもこのバッグ、マークも私もよくかつげたものだわ。
どーん。

ああ、やっぱり2匹分入ってる。ていねいに巻いてありました。

これだけの重さのウールをまとっていた羊たち。初夏の毛刈りはさぞかし爽快なことでしょう。
さあ、地元で、友人の手によって飼育されるサフォークの羊毛はいかに。
次回の記事で、紡ぎます!
望月えりか 初著書「見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし」オンラインほか、全国の書店にて販売中

望月えりか@Instagram ―暮らしの中の美しいものを記録しています―
望月えりか @Twitter ―心に浮かんだこと、何気ない出来事や印象に残った瞬間を言葉にしています―
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「ハンドメイド、手仕事のマーケットプレイスCreema(クリーマ)」にてアイルランドの毛糸を販売しています。



オンラインショップ「ハンドメイド通販 iichi(いいち)」にて毛糸を使った作品を出品しています。


その多くは食肉用で、羊農家さんが好んで飼育する羊の品種というのも、だいたい決まっているものです。残念ながら、これらの羊の毛は私たちが肌にまとうウール製品にはならないというのが一般的な認識です。アイルランドの食肉用羊の毛は短く、そもそも紡ぐのに不向きです。また、せっかく紡いで糸にしても肌触りはかたく場合によってはちくちくして、とてもじゃないけれどマフラーや帽子としては使えない、ということらしいのです。このようなウールは、昔はカーペット作りなどに使われ、今では家の断熱材やフィリングになっていると言われます。
こんなにたくさん羊はいるのに、ウール素材として使えないというのは実にもったいない。本当にだめなのかな。
5月下旬から6月上旬の季節になると、アイルランドでは一斉に羊の毛刈り作業が始まります。それまでもこもこしていた羊たちは、毛刈りを終えるとまるで一回り小さくなったみたい。身軽に牧草地を駆け回ります。
ときどき遊びに行っている、村のパブの音楽セッションのホストを務めるマークは農夫さんです。専門は肉牛ですが、ここ数年は羊も飼い始めたとのこと。私が手紡ぎをすることを誰かから聞いたのか、ある時から「今度はうちの羊の毛を持ってきてあげるよ」というのがあいさつ代わりになりました。
「ちなみになんの品種を飼ってるの?」と訊くと「サフォーク(Suffolk)だよ、肉用だからね」
うーん、サフォークか~。
今年の6月のはじめ、パブセッションのある水曜日のある午後のこと。今度はマークからテキストメッセージが入り、「エリカ、今夜セッションに来るんなら例の羊毛持っていくけど」とのこと。
アイルランドの肉食用羊のウール。紡げるのかな?実際のところ、肌触りは果たしてどんな感じなんだろう?
これは実験のチャンス。事実確認のチャンス。
「Yeah I'll see you tonight, thanks Mark.」とテキストメッセージを返して、ありがたくオファーを受けることにしました。
夜、いつも通りの音楽仲間とあいさつを交わし、いつも通りの音楽を一緒に演奏して、楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。セッションが終わると、マークは「よし、車の中にエリカへのプレゼントがあるから僕と一緒に来たまえ」と言って、「Come on」と促します。
「1匹分でいいって言ってたけど、2匹分あげる」
「バッグが大きいんだよね、車のトランクに入るかなあ」
「お、マークとエリカが闇取引してる」などと友人にからかわれながら、薄暗い街灯の下でマークの車から登場したのは超特大のプラスチックバッグ。私の小さな車のトランクに手でぎゅうぎゅうと詰めこみ、ほぼ無理やりふたを閉めて、どうにか搬入作業が完了。
「扱いやすいようにロール状に巻いておいたから」
「紡ぐのには毛が長い方がいいだろうと思ったから、なるべく長いのを選んでみたんだよ」
まあ、なんて優しい。
「本当にありがとう。どんなウールなのか私も楽しみだわ。毛糸になったら持ってくるから」
「いらないいらない!全部自分で楽しんでよ!」
帰宅したのは12時過ぎ。
夫のパットさんはとっくのとうに就寝、子どもたちももちろん夢の中です。トランクを開け、一人でバッグを取り出します。
2匹分の羊毛とは言え、お、お、重い~~~。
「ちょっと、神様、なんとかして」などと独り言を言いながら、ずっしりとしたバッグをやっとのことで家の中に引きずり入れました。これ、ミッドナイトにする仕事じゃないよね~。
そして翌日。待ち切れずに、昨夜運び入れたバッグの中身を覗いてみると・・・

わー!入ってる、入ってる!
そしてバッグを開けた途端に鼻をつく、この羊特有のにおい。でも待てよ。え~、よく見るとウールの感じも決して悪くないですよ。ラノリンという羊毛にもともとついている天然オイルも多すぎないし、ファイバーの細かさも部分的には上等に見えるではありませんか。
こ、これは、早く紡いで確かめたい!
それにしてもこのバッグ、マークも私もよくかつげたものだわ。
どーん。

ああ、やっぱり2匹分入ってる。ていねいに巻いてありました。

これだけの重さのウールをまとっていた羊たち。初夏の毛刈りはさぞかし爽快なことでしょう。
さあ、地元で、友人の手によって飼育されるサフォークの羊毛はいかに。
次回の記事で、紡ぎます!
望月えりか 初著書「見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし」オンラインほか、全国の書店にて販売中

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テーマ:アイルランド不定期便
ジャンル:海外情報