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2020.02.19 15:35|アイルランドの自然
私たち人間は、古木とか大木というものに特別な気持ちを抱くようです。ある種の畏敬の念のようなものでしょうか。人の一生とは比べものにならない気の遠くなるような年月を、もの言わずたたずむ一本の木。

私の暮らす東クレアにも、そんな木があります。
我が家からは車で30分ほど。やや入り組んだところにあるのと、サインも標識もないので地域の人たちですら知らなかったりします。
というのもこの木、実は私有地にひょっこり立っているのです。ある農場の牧草地の端っこにあり、初めて訪れた時はどうやったら木の近くまで行けるのか分からず、途方にくれたものです。

私有地だとしたら、ひょっとすると持ち主の方は赤の他人がうろうろするのを好まないかもしれない。
どうしよう。

と思っているところへ、たまたま農夫さんらしき男性があぜ道を歩いているのを見かけたので、おそるおそるですが尋ねてみることにしました。
「あの~、すみません。あのオークを見たいんですけど、どうやったら木の足元まで行けますか?」

すると農夫さん、「ああ、あの木だね?そしたら今歩いてきた道をちょっと戻って。注意して見てるとログが数本渡してあるのが分かるはずだよ。しばらく行ってないから、もしかするといばらで覆われてるところもあるかもしれないけど、一応歩けるようにしてあるんだよ。いやー、あのオークの木を見るためにいろんな人たちが来るもんだよ。どっかのお偉い学者さんとか教授さんとかもね、リサーチだとか言って。私にはさっぱり分からないけどねえ」
ものすごくきつい東クレア訛り、おまけに前歯が数本ない農夫さん。何を言っているのか聞き逃さないよう、私は一生懸命でした。

お礼を言い、何とか教えてもらったけもの道を見つけます。
足元に注意しながら、蔓やらとげとげのいばらをかき分けてようやっとたどり着くことができました。

Brian Boru Oak Tree (2)

この木だけが、ぽつんと一本だけ立っています。近くで見ると、やはり圧巻。
木肌に触れ、樹木を見上げていると何とも言えない異空間へ運んでくれます。

Brian Boru Oak Tree (1)

聞こえるのは鳥の声と、遠くを行くトラクターのエンジン音。目の前の牧草地には牛が数頭、のんびりと草を食んでいます。平和で穏やかな場所です。
1000年前に眺める景色は、きっと今とは全然違うものだったんだろうな。

話はやや横道にそれますが、アイルランド全国に無数に点在するちょっとした遺跡や古墳のようなものも、私有地のど真ん中にあったりします。小さなストーンヘンジの輪の周りに牛や羊が放牧されていたり、民家のわき道を通らないといけなかったり。
州や国が土地を買い取り、保存、観光化していくというのでなく、地元の人たちにゆだねられているような形です。最初はとても驚きましたが、代々その土地に暮らす人々ほど土地の歴史を知っているし理解しているので、たいていの場合行き届いた管理がされていて、地図を見ながら遺跡巡りをする個人観光客の人たちにも寛容に開放しています。それも、柵を立てたり門を作ったり、ましてや入場料をせびるようなあこぎな人はほぼ皆無。目立った看板も汚らしい旗もお土産屋もなく、ありのままの姿を見ることができるのはとてもいいなと思います。

今回ご紹介したオークの木は、地元では「ブライアン・ボルーのオークの木」という名で親しまれています。
ブライアン・ボルー(Brian Boru)とは、アイルランドの歴史に詳しい方ならご存知の人物かと思いますが、900年代半ばに生まれ、のちにアイルランドの王となった人です。ブライアン・ボルーはオークの木のあるエリアから遠くないクレアの出身であること、そしてこの木が推定樹齢1000年と言われ、ボルーとほぼ同じ時代から生きているということで、「Brian Boru's Oak Tree」と呼ばれるようになりました。

ブライアン・ボルー

でも、例えば日本に存在する古木の数々に比べると、樹齢1000年とは大したことがないように思いませんか?
お隣ブリテン島(イギリス)にある最古の木は、ウェールズにある樹齢5000年のイチイの木であると言われています。
なぜアイルランドにはこれに匹敵する木が存在しないのでしょうか。

アイルランドの風景と言えば、どこまでも広がる牧草地というのが一般的かもしれません。
しかしこれ、本当は人為的な手が加えられた景色なのです。大昔のアイルランドの多くの土地は森に覆われていたといいます。それも、アイルランドの原木オークの森林。さぞかし美しい原風景だったことでしょう。しかしイングランドの支配のもと、これらの美しい森は次々に伐採され、特にオークは高品質の船材木としてイングランドに運ばれ、利用されました。私の暮らす東クレアの材木もクオリティーがよく、ロンドンのかの有名なウェストミンスター寺院の建築にも使われているとか。

生きている木の年齢を測ることは難しいそうで、果たして本当に樹齢1000年なのかどうか、首をかしげる専門家も多いようです。今でも葉を伸ばし続ける木の下に座ると、そんな歴史をかいくぐって生き延びたこの木の運命が奇跡のように感じられ、木が見てきたであろう時の流れに思いを馳せます。

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望月えりか

Author:望月えりか
書く人。日々の暮らしの様子をエッセイにしてお届けしています。
2004年よりアイルランド人の夫、一姫二太郎と4人でアイルランド西部の小さな村に暮らしています。
アイルランドの自然と伝統音楽に囲まれながらオーガニックな野菜作りと食生活、農家さんの羊毛で糸紡ぎ。アイルランド伝統音楽プロジェクト「ブラックバードミュージック」運営。フィドルを弾いたりフルートを吹いたり。
著書「見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし」(出版舎ジグ)
新聞、雑誌等プレスへの寄稿文依頼はirishcountrylife@gmail.comまでお問い合わせください。

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