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2013.07.28 07:58|豊かな暮らしを考える
去年の7月、愛知県長久手市で講演をさせていただいた時に、ご紹介したエピソードがあります。

講演はトーク&フォト《アイルランド田舎生活》というタイトルで、アイルランドの田舎生活の紹介とそれを通して心豊かな暮らしを送るための知恵を、皆さんと一緒に考えていこうというテーマで準備を進めました。
(詳しくはこちらの記事をご覧ください)

ちょっと長くなりますが、そのエピソードをこのブログでも記事にしたいと思います。

去年の3月のことです。ウェックスフォードに住む夫の大学時代の親友のパーティーに招かれ、子どもたちをフィークルの友人に任せて夫と二人で行くことにしました。
クレアからウェックスフォードまでは思った以上の距離があり、「行きは大丈夫だけど、帰りにはガソリン入れないとね」と車中で夫と話していたのです。通りかかった町に「24時間営業」とあるガソリンスタンドを見つけ、その時はパーティーに間に合うよう急いでいたので「じゃあ帰りにここで入れればいいね」ということになりました。

wexford town
(ウェックスフォードは東海岸沿いの美しい港町)

パーティーが終わって、その帰り道。
ガソリンもずいぶん減ってきた頃、「この町だったよね」と思いながらいざそのガソリンスタンドまで行ってみると・・・真っ暗!
嫌な予感がして、それでも車で入っていくとやっぱり誰もいません。そして、スタンドには「ここは無人のガソリンスタンドです。ガソリンを入れる方はセルフサービスでお願いします。お支払いはクレジットカードのみです」とあるではありませんか!
クレジットカードを持ち合わせていなかった私たちは顔面蒼白に。
時計を見ると、既に夜中の1時を回っています。

「とりあえず次の町まで行ってみよう、ここよりは大きい町だったからまだ開いてるガソリンスタンドがあるかもしれない」

というわけで次の町まで車を走らせました。
ガソリンのメーターはこの時すでにかなり少なくなっていて、途中ですぐにランプが点灯しました。

どうにか次の町までたどり着きましたが、真っ暗な中を見知らぬ町で探し回るのは大変です。夫が閉店間際のピザ屋さんに駆け込んで、店員さんに聞きにいきます。
しかしがっかりした様子で車に戻って来て、「この町にはないって・・・。次の町、クロンメル(Clonmel)まで行けばもしかしたらあるかもしれないけど、行ってみないと分からないって・・」と言います。

クロンメルまではかなりの距離です。クロンメルまで持つのかしら・・・。途中でガソリンが底をついたら、道路脇で野宿?3月の夜はまだまだ寒さも厳しく、車の中は一気に冷え込むでしょう。誰かこの周辺に住んでいる友だちに連絡するとか?でももうこんなに遅い時間だし・・。車が最も燃費よく走るのって、時速何キロの時だっけ?
そんなさまざまな思惑が頭の中を行ったり来たり。

clonmel town
(クロンメルの町。これはもちろん昼間の様子・・)

会話らしい会話もなく、夫と二人緊張の面持ちでとにかくクロンメルに向かいました。
クロンメルの町は比較的大きいはずですが、到着してみると町には人通りがありません。運の悪いことにこの夜は平日の火曜日。週末ならばまだしも、こんな夜中に人がいないのは当たり前です。
ガソリンメーターのランプを点灯させながらも車でウロウロするうちに、まだ営業中のマクドナルドを発見。そこから出てきた男性に夫が声をかけます。

すると・・・「あるよ、1軒。営業してると思う」

よかった!!!
と思ったのも束の間、ガソリンスタンドへの行き方は複雑で、説明してくれる男性も要領を得ません。
しかも夫と私はほぼパニック状態で、説明されてもなかなか頭に入りません。

言われた方向に車を走らせますが、案の定また迷ってしまいました。

ちょうど町中の信号が赤になり、停車した時のこと。信号の反対側に車がやってきて、停車しました。
通りには道を聞けるような人通りもなく、信号が青になった途端夫が車の窓を開けて相手の車に合図します。

乗っていたのは若い青年でした。
まだ20代前半でしょうか、窓を開けた途端カーステレオの大音量が道路に響きます。いかにも現代の若者風。

24時間営業のガソリンスタンドを探している旨を伝えると、抑揚のない声でボソボソと説明してくれますが、例によって私たちの頭には全く入ってきません。
青年は、私たちがどれほど困り果てているか、瞬時に察したのでしょう。
「・・・もし分からないんだったら後についてきてくれれば道案内するよ」と言うのです。

ガソリンスタンドは、車で数分のところにありました。

スタンドが見えてくると、前を走っていた青年は車のランプで私たちに合図を送ると、Uターンしてもと来た道を帰っていきました。

涙が出る思いでした。
無事にガソリンを入れて、家路を急ぎながら夫は「よかったねえ、助かったねえ」とのんきなものでしたが、私にとっては一生忘れられない出来事となりました。

このような他人への行為は、夫にとってもあの青年にとっても当たり前のことなのかもしれません。
誰かが困っていたら、無償で手を差し伸べる。
それが夜中の1時を過ぎていても、自分の帰る方向とは逆方向でも、自分の時間を使って他人を助ける。
それは社会人として、当たり前のこと。人として、当たり前のこと。
そこには他者に対する心の余裕がある。人に対する心の豊かさ、寛容がある。

こうした助け合いの精神、お互いさまの精神が彼のような若い世代にもしっかりと受け継がれている国、アイルランド。
この国に住んでいてよかった、と心から思いました。

この話を後日地元のアイルランド人の友人に話すと、今度は彼女がこんなことを言います。
「私たちは家庭でも学校でも、また地域のコミュニティーの中でも、そういう風に育てられてるのよ」

これはまさに財産ではないでしょうか。

アイルランドは観光資源に恵まれた国です。ダイナミックな風土、遺跡、豊かな自然はあらゆる表情を見せてくれます。
しかし、アイルランドという国の最大の魅力は何でしょう。

それは「人」ではないでしょうか。

一度アイルランドに旅行に来て、すっかりその虜になってしまう人々がいます。私を含め、彼らの多くはこんなことを口にします。
「親切にしてもらった」、「道に迷った時に助けてもらった」、「人のあたたかさに感激した」

アイルランドに来ると感じる、あの懐かしい感じ。
飾らない、気取らないアイルランドの人々。

アイルランドは、今多くの人が忘れかけている人間らしさ、人間臭さを思い出させてくれる国ではないかしら。
そんな美しい国に暮らすこととなった自分の運命に感謝するとともに、ここアイルランドから母国日本へ発信できるものは何か、伝えられることは何かを考えていければと思っています。


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望月えりか

Author:望月えりか
書く人。日々の暮らしの様子をエッセイにしてお届けしています。
2004年よりアイルランド人の夫、一姫二太郎と4人でアイルランド西部の小さな村に暮らしています。
アイルランドの自然と伝統音楽に囲まれながらオーガニックな野菜作りと食生活、農家さんの羊毛で糸紡ぎ。アイルランド伝統音楽プロジェクト「ブラックバードミュージック」運営。フィドルを弾いたりフルートを吹いたり。
著書「見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし」(出版舎ジグ)
新聞、雑誌等プレスへの寄稿文依頼はirishcountrylife@gmail.comまでお問い合わせください。

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