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2020.01.30 02:58|毛糸と私
見て見て!
今年の冬の編み物プロジェクトの一つ、パットさんのための手紡ぎセーターがやっと完成しました~。

パットのロムニーセーター (1)

使ったウールは、去年の夏に紡ぎの会のメンバーを通して購入したロムニーという品種の羊の毛。
羊さんたちは私の住むクレア州のお隣、ティペラリー州のロイさんという羊農家で飼育されているそうです。正真正銘、アイルランド産のウール。ロムニーは毛が長く、白やグレイ、黒など色もバラエティーに富んでいて、昔から良質なウールの羊として知られています。
入手してからというもの私はすっかりこの羊毛の虜となってしまい、紡ぎ仲間の女性たちにもどんなにこのウールが気に入ってしまったかを熱く語っていたのでした。
すると、「エリカ、私のところにロムニーの白とグレイが余ってるの。そんなに好きなら、それも譲ってあげられるわよ」

喜んで、買います!!!

そんなわけで、これ以上原毛は買わない、もう家の中が原毛であふれかえってしまう・・という私の誓いはあっさりと破れ、自宅から20分ほどの森の中に住む女性宅までるんるん気分で一人車を走らせたのも、去年の夏のこと。

毛が長ければ長いほど紡ぎ手にとっては嬉しいものですが、羊農家のロイさんは紡ぎという手仕事についても心得のある方らしく、なるべく藁やごみなどのついていない、状態のいい原毛を選んで分けてくれているそうなのです。この気配りがありがたい。
でも、それだけではありません。

このウール、今まで紡いできたアイルランド産の羊毛の中で一番やわらかいかも。

ロムニーウール (4)

日本でよく知られているメリノウールのような柔らかさとは違いますが、チクチクした感じは、少なくとも私はまったくしません。
これだったら、手触りのいいセーターが編める。

そうとなればさっそく作業開始です。

まずはこのふわふわの、形のない羊の毛を糸にするところから。どうしてこれが毛糸になるのか。不思議ですよね。

ロムニーウール (2)

今回は、友人から長期で借りているこちらの紡ぎ車を使って紡ぎました。

ロムニーウール (3)

アイルランド北西部、ドニゴール州で昔から手作りされているこれまたアイルランド産の紡ぎ車です。この紡ぎ車については、また別の機会を設けてご紹介させてください。

ロムニーウール (1)

ほら。少しずつ、糸になってきましたよ。

ロムニーウール (6)

パットさんのセーターのメインカラーとなったこのウール。何色といえばいいのかしら?黒?ダークグレイ?ダークブラウン?
よく見ると、ところどころグレイがかっていたり赤茶色や白が入っていたりします。

ロムニーウール (5)

何とも形容しがたい色。人の手では作れない、自然な色だと思いませんか。

パットのロムニーセーター (2)

今回のパットさんのセーターもまた、私がここ数年習得中のアイスランドの伝統的なセーター、ロピのスタイルにならって編みました。本来なら袖や裾部分にも異なる色で模様が入るのですが、「なるべくシンプルに」というパットさんの要望に応えて模様は胸元に限定。それもなるべくプレーンな模様を選んだ・・・つもりです。

パットのロムニーセーター (3)

模様部分に使った糸も一色のみ。もちろん、ロイさんの農家からやって来た同じロムニーのウールです。

お正月明けに完成したこのセーターに袖を通したパットさん。「着心地が良くてあったかい」と大喜び。よかったよかった。

原毛を紡いで糸にして、今度はそれを編んでセーターを作るなんて気の遠くなるような作業だと思われるかもしれませんが、案外あっという間に仕上がるものです。もちろん何時間という時を費やしてはいるわけですが、一冬という時間をもらえれば少しずつ作業を進め、形にしていくことができます。

何より、こんなセーターはお店で見かけて購入したセーターとは違って、特別な思い入れがあるもの。「どこで手に入れたか覚えてないや~」ということは、まずありません。大切に着てくれるはず。
そんな「もの」との関係。「衣」との関係が暮らしの中にあること。私にとってはとても大切な、暮らしの断片です。

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2019.11.27 12:39|毛糸と私
11月も半ばとなりました。日本もずいぶん寒くなってきたのではないでしょうか。
私にとって、夏はもっぱら畑で自分たちが食べる野菜を育てる季節。日が短く天気の悪い冬は、家の中で毛糸を紡ぎ、編むという手仕事に没頭しています。家族のためのセーターなども編んでいますが、私がアイルランドの毛糸販売をしているCreema(クリーマ)さん、そしてアイルランドの毛糸を使った作品を出品しているハンドメイド通販 iichi(いいち)さんを通して、11月に入ってからご注文を立て続けにいただき、忙しい日々を送っているのです。

この冬には新しい作品も出したいし、アイルランドのウールを使った手紡ぎ糸も販売していきたい。この冬に紡ぐ予定の原毛は夏の間にたまりにたまり、私のワークスペースはもこもこのウールが詰まった大きなバッグで足の踏み場もありません。
アルパカたちに会いに行く」という先月の記事でご紹介した、紡ぎ仲間の一人ヴァレリーが運営するアルパカ農場を訪れた際、思わぬ手土産をいただいてしまいました。

帰り際、「エリカ、これは今日のオープンデイを手伝ってくれたお礼。紡いだら感想聞かせてね」と言ってヴァレリーがアルパカのウールをプレゼントしてくれたのです。優しいキャラメル色で、しかもきれいに梳かしてある。
うわー、これは紡ぎがいがありそうです。

Loophead Alpaca 2019 (3)

さて、ウールが梳かしてあるとはどういうことでしょう。これは、糸を紡ぐ際の下準備としてカーディングというプロセスがあり、金属のブラシのような道具、カーダーを使ってウールを梳かすことを指します。カーディングをすると小枝や汚れなどがあらかた落ちる上、スムーズで紡ぎやすいウールになります。ヴァレリーのスタジオにはドラムカーダーと呼ばれる大型のカーダーがあり、これであらかじめ梳かしてくれたのが、今回いただいたアルパカウールだったのですね。

オープンデイの日には、手持無沙汰の娘のリラとその友だちエイヴァがドラムカーダーを発見。初めて使わせてもらうことになりました。

Loophead Alpaca 2019 (17)

少しずつウールを流しこみながら、ハンドルを回すとドラムが回転し無数の歯がウールを梳かし始めます。
ぐるぐるぐるぐる。

Loophead Alpaca 2019 (14)

力仕事ではないのと、次々に手元で出来上がっていく作業が楽しくて二人とも没頭。延々とドラムカーダーを回し続け、私が持参したグレイの羊毛をきれいに梳かし、ロール状になったものをどんどん運んできてくれます。
この日に訪れたお客さんの対応を一人でしていたヴァレリーも、「カーディングのデモンストレーションをしてくれて助かったわよ」と嬉しそう。

そんな一日の終わりに、ヴァレリーはキャラメル色のアルパカウールと一緒に「これは私のところのアルパカではないのだけど」と言って白いアルパカの毛も一緒に持たせてくれました。

Loophead Alpaca 2019 (1)

こちらは刈られたままの状態のウール。ごみもほとんど混入していない様子だし、このまま紡げそうです。

Loophead Alpaca 2019 (2)

ふわっふわ。
そそられます。

Loophead Alpaca 2019 (9)

食べ物でもウールでも、その土地で生産されたものが、こうして人と人との直接のつながりを経て回っていく。これ、私にとってはとても意味のあることです。

Loophead Alpaca 2019 (15)

サンルームの隅っこにごちゃごちゃと紡ぎ車や羊毛の入ったバッグが散乱している私の作業場に比べたら、ヴァレリーのスタジオは本当に素敵でした。いつか私も自分だけのスタジオが持てることを夢見て・・。

手仕事に忙しいこの冬、どうにかしてヴァレリーのアルパカの毛を紡ぐ時間を作りたいものです。アイルランド産のアルパカウール。このウールが毛糸に生まれ変わったら、また皆さんにご紹介したいと思います。

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2019.10.05 00:40|毛糸と私
紡ぎ仲間の一人、ヴァレリーが西クレアの自宅でアルパカ農場を営んでいることは、紡ぎの会に何度か通ううち知るようになりました。
行ってみたいなと思いつつ、私はまだまだこの会の新入りだし、出しゃばった真似はしたくない。控えめに、控えめに。
前回の集まりでヴァレリーにとてもきれいなアルパカの毛を紡いでいるのを見せてもらいながら立ち話をしていると、「ほら、来週の日曜日に私の農場のオープンデイがあるから、ぜひいらっしゃいよ。家族も連れてきて」と嬉しいお誘いをいただきました。
オープンデイというのは、普段は有料であったり商品を販売している場所を一般公開し、みんなに足を運んでもらう日です。仲間たちで手紡ぎのデモンストレーションをするから、エリカも紡ぎ車を持って参加してほしい。ヴァレリーにお礼を言っておじゃまさせてもらうことにしました。

娘のリラが近所に住む親友のエイヴァと一緒に行きたいというので、二人のティーンエイジャーを後部座席に乗せ、手作りのランチ、飲み物、紡ぎ車とこの日紡ぐ予定のウールを袋に詰めて、日曜日の朝10時に自宅を出発です。

エニスの町を迂回するようにして、慣れない道を西部へ。1時間ほど走るとキルラッシュというクレア州内で2番目に大きな町が見えてきました。「リラのおじいちゃんが若い頃に働いてた町だよ。北ケリーが近いからね、ここは」と娘に説明しながら、目指すキルキーという海岸沿いの町まで一気に走らせます。
最後にはわだちのあるまっすぐの一本道をごとごとごと。この辺りは土地が平坦で、大西洋からの風が冷たい。徐行しながら少し行くと、とあるエントランスの横にヴァレリーの農場のサインを見つけ、どうやら無事到着です。

建物の見える敷地内に入っていくと、既に訪問者の車が数台停まっていました。するとヴァレリーの旦那さんビリーがどこからともなく現れて、「ああ、ヴァレリーの紡ぎ友だちの方だよね。そうしたら中庭に駐車したらどうかな。紡ぎ車とか、いろいろ運ぶものがあるでしょう」と言って門を開け誘導してくれました。とてもおしゃれなツイードの帽子に、これまた素敵な紺のあたたかそうなセーターというスタイルのビリーさん。今日は一日外で訪問者向けにアルパカの説明をするのだそうです。

自宅らしき建物の裏にヴァレリーのスタジオがありました。入ると心地のよいストーブの横のカウチにヴァレリーが座り、既に糸紡ぎをしています。彼女のスタジオはもともと牛小屋だったものを改築したのだそう。小ぢんまりとした空間には織り機や紡ぎ車などが趣味良く配置され、白く粗い壁に美しく映えます。ああ、私もこんな自分だけの部屋がほしいなあ!
あいさつをして自分の紡ぎ車を運び入れ、準備をしているとティーンエイジャー二人は「早くアルパカ見に行こう!紡ぐのはそのあと!」と私の手を引っ張るので、まずは外に行くことにしました。

アルパカ、どこにいるんだろう?

Loophead Alpaca 2019 (10)

いました~!

ヴァレリーの農場には合わせて11頭のアルパカがいるそうで、そのうちこの春に生まれたばかりの赤ちゃんアルパカにも会うことができました。
この子たちです。

Loophead Alpaca 2019 (7)

ひょえー、なんだか特大のぬいぐるみを見ているみたい!か、かわいい・・・。

ビリーさんが農場やアルパカという動物について、ていねいに説明してくれます。今日のお客さんたちはほとんどが地元の人々。家族連れやファーマーさんなど、皆さん興味津々で聞いていました。

Loophead Alpaca 2019 (6)

そして、この毛!もこもこ、ふわふわ。紡ぎ人の目が光るわ~。

こちらの赤ちゃんは健康に生まれたものの、お母さんアルパカが育児拒否。ヴァレリーにとっては初めての経験で最初は戸惑ったそうですが、今は2時間おきにほ乳瓶でミルクを与え、順調に育っているということです。赤ちゃんの名前はマリオくん。

Loophead Alpaca 2019 (11)

ランチタイムですよー。

アルパカという動物、こんなに近くで見たのは初めてでした。この動物の毛を紡ぐのか~。

Loophead Alpaca 2019 (4)

裏のフィールドには馬が4頭飼われていて、こちらも大人気。

動物見学のあとはヴァレリーのスタジオに戻り、手紡ぎデモンストレーションです。
次から次にスタジオに入ってくるお客さんたちと時おりおしゃべりをしたり、紡ぐ過程の説明をしたり。貴重な体験をさせてもらいました。

ヴァレリーのスタジオの様子を少しご紹介。

Loophead Alpaca 2019 (19)

こちらは私が座っていたカウチの横に飾ってあった紡ぎ車。どこのメーカーのものでしょう、とても古い感じがします。飾ってあるとは言っても紡がれた糸がボビンに巻かれているのですから、現役ですね。シンプルなデザインがいいなあ。

Loophead Alpaca 2019 (16)

窓際のデスクに置かれたこちらの紡ぎ車は、ドニゴール産。ジョニーさんという紡ぎ車職人さんのお父さまが作られたもの。ミニチュアのようですがちゃんと糸が紡げます。

Loophead Alpaca 2019 (13)

ヴァレリーは染色もやっていて、自ら紡いだアルパカの毛糸を身の回りの植物や花を使って染めています。

Loophead Alpaca 2019 (12)

どれも素朴な色ばかりで、見ているだけで気持ちが和らぎます。と同時に刺激的。こんなことがどんどんできたら、楽しいんだろうなあ。ヴァレリーは毛糸の販売も行っており、この日も購入希望のお客さんが数名ありました。
機械で紡がれた毛糸には絶対に出せない風合い。もちろんその分の代価はかかりますが、これで一生愛せるアイテムが作れれば、けちをするなんて愚かです。毛糸には、ウールが取れた年とアルパカさんたちの名前がそれぞれ表示されていました。

Loophead Alpaca 2019 (18)

毛糸好きにはたまらないこちらのコーナー!
アルパカのナチュラルな色そのものの毛糸や染色されたウール。どれを手にとってもやわらかく、夢のようです。

Loophead Alpaca 2019 (8)

自分の土地で飼育する動物の毛を収穫し、糸を紡ぐ。編み物をする私たちにとって、これは最も理想的なありかたではないでしょうか。土地に寄り添い、その土地と共に生きる。

いいなあ。いいなあ。

あとから聞いた話では、この日は200人ほどの来場があったそう。西クレアがん基金のための寄付金も募っており、私も少し寄付をしてきました。こちらも800ユーロ以上集まったというのですから、ヴァレリーたちにとって大成功の日となったことでしょう。

帰り際になると、ヴァレリーが「エリカ、これね、少しだけどうちのアルパカの毛。紡いでみて、結果を知らせてね」と言って遠慮する私の手にアルパカウールの入った紙袋を持たせてくれました。
真っ白のウールと、キャラメル色のウール。また紡ぐ楽しみが増えそうです。

この日の様子は、フォトグラファーであるヴァレリーの息子さんがフェイスブック動画にしてまとめています。私のフェイスブックページでも後日皆さんにご紹介したいと思っています。→アイルランド田舎生活facebook

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2019.09.20 12:22|毛糸と私
そんな経緯から、音楽仲間で農夫のマークからプレゼントされたサフォークという品種の羊の原毛。
紡いだ結果から先にご報告してしまうと・・・

立派な毛糸になりました!

マークの羊毛 (1)

確かに決して柔らかいとは言えないタイプの毛糸ではありますが、我慢できないほどの肌触りでもありません。私が一番最初に自分の手紡ぎ糸で編んだ、自分用のセーター(下に掲載した写真で私が着ています)と同じぐらいのかたさです。レッグウォーマーや何かのカバーなどを編むのに向いているかも。

ここ1年ほどメンバーとして仲間入りさせてもらっている紡ぎの会のリーダーの一人、サンドラさんにサフォークのウールについて訊いてみると、「そうね、紡ぐ者としてはお気に入りの品種には入ってこないと思うけど、ウール自体はあたたかくてなかなかいいと思うのよ」とのこと。飼育方法や羊の年齢によっても質が変わってくるそうです。

さて、今回はもう一つ試してみたいことがありました。
一度袋から取り出し、原毛の点検をするのです。
羊の原毛は、広げてみるとだいたい一枚のカーペット状になっています。どちらが表面でどちらが内側の毛か。ここが足の毛だな、とか、ここが背中、ということも見当がつくのです。原毛はまるごと使えるわけではなく、毛が細く柔らかい部分、あまりに汚れていて使えない部分、雨風にさらされてかたくなってしまった部分などさまざまです。あらかじめ点検をすることで、明らかに使えない部分を取り除き、紡ぎの工程に備える準備をするのです。

マークの羊毛 (3)

この日は雨が降っていなかったので、さっそく原毛を広げてみました。

マークの羊毛 (2)

触ってみて、毛が太すぎる部分は思い切って捨てていきます。糞やら藁やらで絡まった部分もさようなら。更には毛刈りの過程で短く切り過ぎた部分も、紡ぐのには不向きなので取り除きます。
しかしこの作業も楽ではありません。だんだん判断力が鈍ってきて、さっき捨てたばかりの部分がやっぱり使えるような気がしたりしてしまうのです。また、自分が一体どんな糸を作りたいのかということと関わってくるので、これがぶれてくると作業が滞ります。まだまだ経験が足りないなあ。

どうにかこうにか原毛の分別作業にきりをつけ、待望の紡ぎの作業にとりかかりました。

マークの羊毛 (4)

2玉紡いで、こちらはわざといつもよりも太めに紡いでみました。
毛の長さはまったく問題なし。マーク、合格合格。

紡ぎ終わった単糸を、今度は2本一緒に撚っていきます。だんだん糸らしい形になってきました。私はいつも原毛を梳かさず洗わず、そのまま紡ぐので、双糸に仕上がった時点でお湯を使い、洗浄します。何度もゆすいでいくと、羊本来のきれいな色が次第に姿を現します。

マークの羊毛 (8)

納屋には、大量の原毛が詰まったあの特大バッグがまだ転がっています。
全部使い切れるかどうかは別として、本当にありがたいプレゼントとなりました。以前から疑問に思っていた、食肉用の羊のウールが実際にどんなものなのかも、今回ようやく手がかりがつかめた気がします。サフォークは夢見るような柔らかさではないけれど、紡ぐには十分だし、紡いだ糸で何かを編んでいくことも十分可能であることが分かりました。ただのフィリングになってしまうなんて、やっぱりもったいないです。

それに、マークの羊毛を紡ぐ時間は幸せです。私にとっては、ただ紡いでいるという行為ではなく、私が細々とでもつながっているこの地に生きる人たちの存在を感じることができる体験であり、そんなつながりに感謝できる時間だからです。

ああやっぱりいいな、この地にあるものに寄り添う暮らし。食べものだけでなく、着るものも地産地消が少しでもできたらいいのに。
マークの娘さんは毛糸遊びが好きだと言っていたので、紡いだ毛糸を少しだけ玉にしてお返ししようと思っています。

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2019.09.18 20:44|毛糸と私
アイルランドには羊がたくさんいます。
その多くは食肉用で、羊農家さんが好んで飼育する羊の品種というのも、だいたい決まっているものです。残念ながら、これらの羊の毛は私たちが肌にまとうウール製品にはならないというのが一般的な認識です。アイルランドの食肉用羊の毛は短く、そもそも紡ぐのに不向きです。また、せっかく紡いで糸にしても肌触りはかたく場合によってはちくちくして、とてもじゃないけれどマフラーや帽子としては使えない、ということらしいのです。このようなウールは、昔はカーペット作りなどに使われ、今では家の断熱材やフィリングになっていると言われます。

こんなにたくさん羊はいるのに、ウール素材として使えないというのは実にもったいない。本当にだめなのかな。

5月下旬から6月上旬の季節になると、アイルランドでは一斉に羊の毛刈り作業が始まります。それまでもこもこしていた羊たちは、毛刈りを終えるとまるで一回り小さくなったみたい。身軽に牧草地を駆け回ります。

ときどき遊びに行っている、村のパブの音楽セッションのホストを務めるマークは農夫さんです。専門は肉牛ですが、ここ数年は羊も飼い始めたとのこと。私が手紡ぎをすることを誰かから聞いたのか、ある時から「今度はうちの羊の毛を持ってきてあげるよ」というのがあいさつ代わりになりました。
「ちなみになんの品種を飼ってるの?」と訊くと「サフォーク(Suffolk)だよ、肉用だからね」

うーん、サフォークか~。

今年の6月のはじめ、パブセッションのある水曜日のある午後のこと。今度はマークからテキストメッセージが入り、「エリカ、今夜セッションに来るんなら例の羊毛持っていくけど」とのこと。

アイルランドの肉食用羊のウール。紡げるのかな?実際のところ、肌触りは果たしてどんな感じなんだろう?
これは実験のチャンス。事実確認のチャンス。

「Yeah I'll see you tonight, thanks Mark.」とテキストメッセージを返して、ありがたくオファーを受けることにしました。

夜、いつも通りの音楽仲間とあいさつを交わし、いつも通りの音楽を一緒に演奏して、楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。セッションが終わると、マークは「よし、車の中にエリカへのプレゼントがあるから僕と一緒に来たまえ」と言って、「Come on」と促します。

「1匹分でいいって言ってたけど、2匹分あげる」
「バッグが大きいんだよね、車のトランクに入るかなあ」

「お、マークとエリカが闇取引してる」などと友人にからかわれながら、薄暗い街灯の下でマークの車から登場したのは超特大のプラスチックバッグ。私の小さな車のトランクに手でぎゅうぎゅうと詰めこみ、ほぼ無理やりふたを閉めて、どうにか搬入作業が完了。

「扱いやすいようにロール状に巻いておいたから」
「紡ぐのには毛が長い方がいいだろうと思ったから、なるべく長いのを選んでみたんだよ」

まあ、なんて優しい。

「本当にありがとう。どんなウールなのか私も楽しみだわ。毛糸になったら持ってくるから」
「いらないいらない!全部自分で楽しんでよ!」

帰宅したのは12時過ぎ。
夫のパットさんはとっくのとうに就寝、子どもたちももちろん夢の中です。トランクを開け、一人でバッグを取り出します。
2匹分の羊毛とは言え、お、お、重い~~~。

「ちょっと、神様、なんとかして」などと独り言を言いながら、ずっしりとしたバッグをやっとのことで家の中に引きずり入れました。これ、ミッドナイトにする仕事じゃないよね~。

そして翌日。待ち切れずに、昨夜運び入れたバッグの中身を覗いてみると・・・

マークの羊毛 (5)

わー!入ってる、入ってる!
そしてバッグを開けた途端に鼻をつく、この羊特有のにおい。でも待てよ。え~、よく見るとウールの感じも決して悪くないですよ。ラノリンという羊毛にもともとついている天然オイルも多すぎないし、ファイバーの細かさも部分的には上等に見えるではありませんか。

こ、これは、早く紡いで確かめたい!

それにしてもこのバッグ、マークも私もよくかつげたものだわ。
どーん。

マークの羊毛 (7)

ああ、やっぱり2匹分入ってる。ていねいに巻いてありました。

マークの羊毛 (6)

これだけの重さのウールをまとっていた羊たち。初夏の毛刈りはさぞかし爽快なことでしょう。
さあ、地元で、友人の手によって飼育されるサフォークの羊毛はいかに。

次回の記事で、紡ぎます!

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望月えりか

Author:望月えりか
書く人。日々の暮らしの様子をエッセイにしてお届けしています。
2004年よりアイルランド人の夫、一姫二太郎と4人でアイルランド西部の小さな村に暮らしています。
アイルランドの自然と伝統音楽に囲まれながらオーガニックな野菜作りと食生活、農家さんの羊毛で糸紡ぎ。アイルランド伝統音楽プロジェクト「ブラックバードミュージック」運営。フィドルを弾いたりフルートを吹いたり。
著書「見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし」(出版舎ジグ)
新聞、雑誌等プレスへの寄稿文依頼はirishcountrylife@gmail.comまでお問い合わせください。

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