2017.09.20 08:43|豊かな暮らしを考える
我が家の畑では、台所から出る生ごみもコンポストにしてときどき畑に撒いて使っています。
その結果、畑を耕している時に土の中に意外なものを発見することがあります。間違って混入したプラスチックの小さな蓋、分解されずに残ったシールやセロテープ。

ああ、土に返らなかったのだな。

見つけるたびにそう感じます。

一方で、私の周囲にある自然、植物や動物、鳥などを無意識に眺めていると、彼らは土に返らないものは何も残さないということにも気がつきます。当然のことに思えますが、論理で知るより体験で知るとその本当の意味が分かります。
彼らは地球のサイクルの中で、地球に負担をかけることなく生存している。まるで地球と共存する方法を心得ているかのようです。
土に返らないものを排出しているのは、人間だけなのですね。

歩む道に迷った時、言葉に詰まった時。私の心の師事の一人である環境活動家サティシュ・クマール氏の哲学を聴くようにしています。
彼がシンプルに紡ぎ出す言葉は、私たちの心に語り、問いかけ、いつまでも残ります。

サティシュ・クマール
(インドの平和/環境活動家、Satish Kumar)

クマール氏も「土」のことに触れています。
”私たち人間は、土に生き、土に返る。こんなに当たり前のことを、私たちは忘れていませんか。”
”自分たちのケアをするということは、地球をケアするということなのです。自然というものは遠く離れたところにあるものではなく、私たちそのものなのです。私たちもネイチャーなのです。自然を利用し痛めつけることは、実は私たち自身を傷つけていることになるのです。”

こぼれ種が嬉しい2016 (1)

土に全く触らない生活を送る人にとっては、ピンとこない話かもしれません。
人工的なものに囲まれた暮らしになればなるほど、土の存在は遠く感じられるものです。「土に触るなんて汚い」「手が汚れる」と感じる人も多いのかもしれません。でも、土から離れ、土に返らないプラスチックやいろいろの人工物に依存した暮らしが、実は地球を汚しています。

宮崎駿氏の映画の中に「土から離れては生きられないのよ」というセリフがありましたが、これはアニメ世界の話ではなく私たちのストーリーです。

「土」について考える時間。「土」に触れる時間。
今こそ必要なのかもしれません。

Erika Moc O'C @Twitter
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2017.03.03 23:30|豊かな暮らしを考える
冬になると、週に一度決まった日に近所に住む女性の家を訪ねます。
一人暮らしの彼女はおしゃべり相手が来るのをいつも楽しみにしていて、午前中の2時間ほどを共に過ごします。

洋裁や編み物の得意な彼女は、いつでも何か作っています。彼女の家を訪ねる時は、私も今自分が編んでいるセーターや手袋などを手提げかばんに入れて持っていき、お互い手を動かしながらおしゃべりをするのです。

彼女はお茶を飲みません。もっぱらコーヒー派の人で、私が行くといつでも「コーヒー作るわよ。エリカはお砂糖とミルク入れるのよね」と言って愛用のコーヒーメーカーでおいしいコーヒーを入れてくれます。

ミルクはたいてい私が彼女の冷蔵庫から出します。
彼女はコーヒーに何も入れない人なので、ミルクを使うのは私だけだからです。私が冷蔵庫を開けても、彼女は全然気にしません。それだけ気兼ねのない付き合いをしているのです。

彼女は、私よりも30歳年上です。
私の両親と同世代の人です。
いつの間にか親しくなって、近所に住んでいることもあり散歩の途中に彼女が我が家に立ち寄ったり、外でばったり会って数分立ち話をしたり。すっかりおなじみの顔となっています。

ある日彼女から電話がかかってきて、「今からバリナーの町に頼んでた老眼鏡を取りに行くんだけど、天気もいいしドライブがてらエリカも一緒に来ない?」とのこと。
急ではあるけれど、たまにはそんなことをしてみてもいいかもしれない。

「OK、じゃあ支度してそちらに歩いて向かうわよ」

昔手首を骨折して以来、彼女はオートマチックの車を運転するようになったそうです。マニュアル車が主流のアイルランドでは珍しいオートマ車。「マニュアルはギアを変換するのに手首に負担がかかって辛いのよ。オートマ車を探すのに苦労したけど、運転できるだけでも感謝しないと」
フィークルの村を出て、田舎町を一つ通過するとまもなくダーグ湖が丘の向こうに見えてきます。
晴れ渡った清々しいお昼の時間、湖畔の道路をゆっくりドライブしていきます。湖には風を受けて走るヨットの姿も見えます。道路の反対側は急こう配の丘が続き、太陽の光を浴びた濃い緑が眩しいほどです。なんて気持ちのよい風景でしょうか。

駐車場に車を停め、彼女の犬リンゴを車内に残して眼鏡屋さんに付き添います。店のステップを上がる時は、足腰のあまり良くない彼女の手をとって一緒に入店します。「私ったら老婆みたいよね!まったくいやになっちゃう」

それから、彼女の親友が働いている健康食品のお店に立ち寄ると、クラフトのコーナーでフェルトづくり用のきれいなウールを見つけました。
「羊毛100%だし、どれも色がきれいでお買い得だわよ!」
くすんだアザミ色や抹茶の色の羊毛の玉をたくさん買い込んで、自分のバッグに詰め込みます。

フェルト用ウール2016 (1)

ショッピングが終わると、お店の女性に教わった小さなカフェを何とか見つけ、ここでやっと一休み。
ミルクがたっぷりのラテとさくさくのペイストリーのお菓子をいただいて、バッグからこぼれ落ちそうな羊毛の玉をもう一度出して眺めては、「何を作ろうかしらね」と二人でアイディアを出し合います。

お店の人たちに、私たち二人がどう映ったのかは知りません。
風貌や話すアクセントからして母娘ではないだろうし。

世代が違えば考え方や受け取り方が違うこともあって、家族観や今起こっている社会問題などの話をしている時に「えっ、そんな風に思うの?」と顔を見合わせることもあります。
世代を越えて、実はお互い多くのことを学んでいるのかもしれません。

年がこんなに違っても、「フレンド」とお互い呼べることを嬉しく思います。
私にとって、友だちでも人生の伴侶でも、年の差というのは人間関係を作る中で障害にはなりません。むしろ、年の差など考えもせずにその人とまっすぐに向き合えることを、大事にしたいと思っているのです。

さて、バリナーの町で彼女とお茶をした数日後のこと。
「エリカ、すごいこと発見したの!」と彼女が興奮気味で言います。
「エリカと二人で外出したあの日ね、偶然にも『女性の日(International Women’s Day)』だったことが分かったのよ!」
そう言って、彼女は私に抱きつき大喜びをしたのでした。

今年の「女性の日」にも、またバリナーに行ってカフェでお茶をしましょうよ。
というのが、彼女と私のプランです。
女性の日は3月8日です。
国際女性デー(ウィキペディア)


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2016.07.26 07:49|豊かな暮らしを考える
洋裁や編み物の得意な友人がいます。一緒にフィドルを弾こうと彼女の家を訪れたところ、手元をライトで照らして何やら手作業をしているのです。

「これね、オーニャ(友人)のセーターなんだけど、袖のところがほつれたから直してほしいって頼まれてるの」

見ると、着古したクリーム色のセーターの袖部分の毛糸がところどころ切れて、大きな穴ができています。
「ちょうど似た色の毛糸が手元にあったから、まずは切れた糸にうまくつなげて、編んで、どうにか穴を繕えるかなと思ってね」

服を直して着るという行為は、私の世代では既に消えていました。
戦後の日本や50年代のアイルランドなどでは、つぎはぎを縫い付けては服を着回していました。貧しかった時代を経験したが故でしょうか、今のアイルランド人たちは古着というものに過剰な拒絶反応があり、服は新品でないといけないと思い込んでいる人が多いようです。
そんな新世代にあって、くたくたに着古されたセーターの穴を繕うアイルランド人の友人の姿が新鮮でした。

衣類が貴重だった昔は、食べていくために必死で生地も買えなかったと言います。苦しい時代であったことは確かですが、今の私たちが忘れてしまった価値観がそこにはあったのではとも思えてきます。
つぎはぎだらけの服は決してエレガントな装いではなかったかもしれません。その代わり、何年もその家で着回される衣類はさぞかし丁寧に大事にされていたことでしょう。

着古した服というのは、いつの間にか自分の体形にぴったりになっていること、ありませんか?他人のようだった新品の服が、何度も袖を通すたびに自分の体になじんでくる、自分の肌になじんでくるというのでしょうか。
そんな愛着のある服を一枚でも所持していることは、私にとってはとても幸せなことのように思えます。

いとへんのついた「繕う(つくろう)」という言葉を辞書で調べてみると、「破れたり、壊れたりしたところを直す」とあります。本来の意味としてのこの言葉は、私たちの日常生活ではほとんど聞かれなくなりました。

買っては捨てる。ちょっと着ては捨てる。
そんな衣類との付き合い方しかできなくなってしまうと、愛着も何もありません。その服がどこで作られているのか、誰が作ってくれたのか、そしてどんな素材でできているのかさえ、無頓着になるのではないでしょうか。
汚れたり破れたりしたら、その服はもうごみ箱行きです。

「断捨離」という言葉を初めて耳にした時は漢字が思い浮かばず、意味も分かりませんでした。ものの少ない質素な生活には私も憧れますが、「買っては捨てる」という行為を繰り返すだけでは解決になりません。

最初から買わない。
なるべく上質なものだけを取り入れて使い込んでいくことができたら、生活はとても美しいものになっていく気がします。
そしてそんな生活の中には、必ず「繕う」という美徳があるような気がするのです。


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2015.06.12 08:03|豊かな暮らしを考える
古い新聞を拾い読みしていたら、ちょっと面白い記事が目にとまりました。

「Quality of Life in Europe(ヨーロッパにおける生活の質)」というタイトルのもので、2013年にEU加盟国別に集計された生活の満足度をまとめた記事です。
集計したのは欧州委員会の資料、統計を担当する部局ユーロスタットで、EU加盟国の16歳以上の国民が回答した複数の項目に基づいています。

アイルランドの生活全般の満足度の項目では、アイルランドは10点満点中7.4点というスコア。
これはデンマーク、フィンランド、スウェーデンに次いで4位という記録です。

新聞記事の中では、EU加盟国の平均人口密集率が17.3パーセントなのに対し、アイルランドはわずか2.8パーセント。
他にも緑地の多い国、空気汚染が少ない自然環境があり暮らしやすい国として、アイルランドはEU圏の中でもトップクラスにランクインしています。

そして「人間関係」の項目では、アイルランドがなんとトップに・・!
10点満点中7.8点がEU加盟国の平均スコアのところを、アイルランドは8.6点と大きく上回っています。このブログでも過去にお話をしたことのある「人と人とのつながり」がしっかり根づき、また家族をとりわけ大切にするアイルランド社会を反映した結果ではないでしょうか。
この項目の詳細では、アイルランドの96.9%の人が「何か困ったことが起きた時に、頼れる人がいる」と回答したとあります。

アイルランド人

面白いのは、「経済状況」の項目です。
不況にあえぐアイルランド。経済状況の満足度は5.5点というEU加盟国の中でも最低のスコアでした。

経済状況は最悪なのに、人生の満足度はトップクラス。

このコントラストは、私たちに何を物語っているのでしょう?

私たちを本当に幸せにしてくれるものは何なのか。人は、何をもとに幸福だと感じるのか。
アイルランド人に限らず、私たちも一緒に考えてみたいテーマです。



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2015.03.21 09:08|豊かな暮らしを考える
アイルランドに暮らしはじめて間もない頃、ある些細な出来事に驚いたことがありました。
スーパーのレジでのひとコマです。

私がレジで並んでいると、私の前にいた女性が振り向いて「お先にどうぞ」と言うのです。
意味が分からずにいると、「だってあなた、それしか買わないんでしょう?」と私が手に持っていた商品を指さします。

こちらの人は、驚くほど大量の食品を一気に買うことが多いのですが、私はその日わずか2つか3つのものを買うために並んでいました。
女性は、「(大量の食品のために)時間のかかる私を待つより、あなたは短時間で済むんだから先に行ったら」と言っていたのでした。

このやりとりは、アイルランドのスーパーのレジで今でもよく目にします。

なんて気持ちのよい心遣いでしょう。
私はこの感覚がとても好きです。

みんな並んでいる。みんな平等に並んでいるのだから、平等に待つのが当たり前じゃないの。
・・ということではないんですね。

「みんな同じ」「みんな平等」というのはとてもフェアに聞こえますが、時には「抜け駆けは許さないわよ」というような冷たい側面もあるように思います。

レジで前後に並んでいる人たちは、赤の他人です。でも、みんなお互い知らんぷりをしているのとは違います。助けの必要な人がいれば誰かがいつも気がついて、自然に手を差し伸べている。そんなほとんど気がつかない程度のところで、この国の人たちは他人を気遣う社会性を当たり前に持っている気がします。
そうでなければ、自分の後ろに並んでいる人の商品の数をチェックするなんてことはできませんね。

「他人にまったく無関心」という姿勢では、私たちの社会は住みにくくなります。
バスや電車の中で、スーパーやレストランで。私たちは例えわずかな時間でも、たまたま居合わせた「他人」と呼ばれる人々と空間を共有しています。そこには、私たちが持ち合わせていたいほんの少しの心遣いがあるといいなと思います。

アイルランドの人々から、今でも多くのことを学ばせてもらっています。



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望月えりか

Author:望月えりか
ウェブサイト「アイルランド田舎生活」のブログ版、日々の暮らしの様子をエッセイにしてお届けしています。
2004年よりアイルランド人の夫、一姫二太郎と4人でアイルランド西部の小さな村に暮らしています。
アイルランドの自然と伝統音楽に囲まれながらオーガニックな野菜作りと食生活、農家さんの羊毛で糸紡ぎ。アイルランド伝統音楽プロジェクト「ブラックバードミュージック」運営。フィドルを弾いたりフルートを吹いたり。
新聞、雑誌等プレスへの寄稿文依頼はirishcountrylife@gmail.comまでお問い合わせください。

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