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2018.09.19 23:40|アイルランドの文化 / 歴史
さて、先週お届けしました記事「紡ぎの会におじゃまします!」に登場した、紡ぎの会の会場となったこちらの場所。実はとっても面白い場所なのです。

皆さん、イェイツ(W.B. Yeats)という詩人の名を聞いたことはありますか。
アイルランドを代表する詩人、劇作家の一人で、1923年にはノーベル文学賞をもらっている文学界の巨人です。アイルランド文芸復興に貢献し、通貨がユーロになる前のアイルランドの20ポンド紙幣に載っていた人でもあります。

我が家からは車で30分強ほどの距離にあるこの石造りの塔、実はイェイツ一家の別荘だったのです。

イエーツに会いに行く (16)

塔の歴史は古く、15世紀にアイルランド全国に普及したアイルランド系ノルマンの建築様式が使われています。王族や貴族によって所有されていたのを1916年にイェイツが購入し、夏の間だけ滞在できるように改修したのだそうです。

イエーツに会いに行く (17)

今では季節限定で一般公開されていて、入場料を払うと塔の中を上ることができるようになっています。
先週ご紹介した紡ぎの会をはじめ、音楽コンサートなど地域のイベント会場としても使われることのある施設です。

塔のぐるりには川が流れており、イェイツの妻ジョージはよく塔の窓から釣竿を垂らして釣りをしていたのだとか。

イエーツに会いに行く (2)

回りには何もありません。聞こえるのは鳥のさえずりと風の音だけ。

イエーツに会いに行く (15)

イェイツはこの塔で数多くの作品を書いているそうです。こんなに静かで平和な空間なら、執筆活動もさぞかしはかどったことでしょう。ダイニングルーム、ベッドルームなどはそのまま残されています。大きな暖炉も、覗き込んでみるとまだ使えそうでした。

イエーツに会いに行く (27)

それにしても、昔の石の家は相当寒かったでしょうね。断熱材も何もなく、ドアや窓からは隙間風が入ります。アイルランドの冬は雨が多いので古い建物の室内は常に湿度が高く、壁や天井にもカビが生えるのです。

イエーツに会いに行く (25)

建物としてはとてもきれいなんですけどね。

イエーツに会いに行く (29)

らせん状の狭く暗い階段をぐるぐると上っていくのはスリル満点で楽しいものです。最後には屋上、つまり塔のてっぺんまで行くことができます。塔の回りは辺り一面緑の木々に覆われています。豊かな水の穏やかに流れる様子を、石の塔から眺める贅沢。
別棟の建物の煙突から、煙が出ているのが見えますか。塔の見学を終えて階下に戻ると、小さな暖炉に泥炭がくべてあり、あたたかな炎を見つめながら紅茶と手作りのケーキをいただきました。入場料には紅茶かコーヒー、それにお茶菓子がついてくるというとてもホームリーなスタイルで運営されているのです。

イエーツに会いに行く (23)

イェイツなんて、学生時代にイギリスアイルランド文学の授業で学んだっきり。
別名「イェイツの塔」と呼ばれるこの施設は、我が家から車でほんの30分強の距離です。別世界に生きたイェイツのような歴史的人物が、気づけば私の暮らしのごく間近にいる。イェイツ死没後80年近くが経っていますが、彼が見ていた風景は今とあまり変わらないのではないかしら。
森の静寂の中にしばし佇んでいると、まるでイェイツに会いに来たような錯覚に陥ります。

せっかくなので、彼の詩をここでひとつ。

「黄昏の中へ」(Into the Twilight) ウィリアム・バトラー・イェイツ詩集「葦を吹き渡る風」より(壺齋散人訳)

  わずかの間に擦り切れてしまった心よ
  真偽の網を潜り抜けて蘇れ
  もう一度黄昏の中で笑え
  もう一度朝露にため息をつけ

  お前の母なるエイレ(※)は老いを知らぬ
  とこしえに朝露が輝き 黄昏が広がる国だ
  たとえお前の希望や愛が崩れようとも
  いやさかる炎が燃え続ける国だ

  心よ 丘々が織りなすこの国に来い
  太陽と月 洞窟と森
  川とせせらぎとの
  神秘な友愛が栄える国に

  神は立ち上がって角笛を吹き
  時間と空間とがゆったりと広がり
  黄昏は愛よりもやさしく
  朝露は希望よりも高らかなこの国に

※アイルランド語でアイルランドのこと。エイラ(Éire)

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2017.03.09 00:20|アイルランドの文化 / 歴史
本日は、アイルランドの歴史に触れるお話をご紹介させていただきます。
決して楽しい話ではありませんが、今日は「女性の日」であることと、この国の形を知るうえでとても大切な歴史の1ページですので、日本の皆さんにもお伝えしたいと思いました。

ここ数日アイルランドのメディアを騒がせている、悲しいニュースがあります。
アイルランド西部ゴールウェイ州にある町チューム(Tuam)のとある敷地に、未熟児から3歳児までの赤ちゃんの遺体が多数埋められていることが分かったのです。

チューム母子の家

一体、この場所で何があったのでしょうか?

チューム母子の家(St Mary's Mother and Baby Home)は、1925年から1961年にかけてカトリックの尼僧たちによって運営された施設です。

尼僧たちの中には看護師の資格のある者もおり、母子の家はいわゆる産院の役割も果たしていました。
しかし、ここは一般的な産院ではありません。
この時代、未婚の女性の妊娠はアイルランド社会において決して許されない恥辱の罪とされていました。
予期せず妊娠をした若い女性は罪人扱いされ、その多くが地域の神父や自らの家族によってチュームのような「母子の家」と呼ばれる施設に送り込まれ、世間から隔離されて出産していたのです。
今でも中絶を認めていないアイルランドでは、妊娠した女性は出産以外の選択肢がありませんでした。

母子の家
(聖メアリー母子の家)

今回発見された赤ちゃんの遺体は、ほぼすべて1950年代のものであることが分かっています。今から60年ほど前のことで、それほど大昔の出来事ではありません。
なぜこれほど多くの赤ちゃんが死に至ったのでしょうか。チューム出身で母子の家の歴史を長年調べ続けているキャサリン・コーレス(Catherine Corless)氏は「死因の多くが赤ちゃんの放置、ケアの放棄にあったのでは」と述べています。

悲しいことに、未婚女性が産んだ子どもたちは母親と同じく社会から拒絶され、忌まわしい存在として扱われました。施設の衛生状態も悲惨なものだったようです。
その結果、母子の家の赤ちゃんや幼児の死亡率は極めて高く、死亡した赤ちゃんは敬意をもって葬られることなく、敷地内に埋められていたのです。もちろん墓石はありません。

私はこの施設を丹念に調べ世に問うた地域の歴史家キャサリン・コーレスさんのドキュメンタリー番組も観ましたが、彼女の努力と誠意ある調査の成果なくしては、この事実が日の目を見ることはなかったでしょう。素晴らしい方です。
「最初は地域新聞に自分たちの土地の歴史の一つとして記事を書こうと調べ始めたわけですが、まさかこんな大規模なスキャンダルになるとは夢にも思っていませんでした」とのこと。

チューム母子の家 (3)
(チューム出身の歴史家、キャサリン・コーレス)

キャサリンさんの調査によると、施設内で死亡した記録のある赤ちゃんや幼児の数は800人近く。これらの遺体が一体どこに行ったのか。今回の遺体発見にともない、その多くが敷地内に埋められているのではないかという疑惑が現実となってきました。

生き延びた赤ちゃんはこの施設でしばらく孤児として暮らし、その後里親に引き取られていくのが常だったようですが、正規の養子縁組の手続きを取らない場合が多く、記録もあいまいです。
母子の家で出産を終えた女性の多くは家族から絶縁され、地域コミュニティーから見放され、赤ちゃんを育てる経済的境遇にも恵まれませんでした。施設に赤ちゃんを残し、イングランドなど遠く離れた地に一人旅立ったり、こうした社会的罪のある(とされた)女性が神に無償の奉仕をする施設に移っていくケースが多かったようです。

この施設こそが、問題作「マグダレンの祈り」(原題「The Magdalene Sisters」 2002年 アイルランド/イギリス合作)という映画に出てきたマグダレンランドリーです。

マグダレンの祈り

私はまだ日本に住んでいたので、東京の映画館で観たのを今でも憶えています。
「マグダレンの祈り」は、未婚で出産したローズ、いとこにレイプされ穢れたマーガレット、美しくふしだらな容姿で男たちをたぶらかしているとされたバーナデット、精神障害のある未婚の母クリスピーナというマグダレンに収容された4人の若き女性たちを描きながら、施設内の様子を鮮明に映し出しました。観たことのない方は、ぜひ。

マグダレンランドリーのような施設は、アイルランド全国に数か所ありました。
また、母子の家もゴールウェイのチュームに限らず20近くの施設があったそうです。

マグダレンランドリー
(マグダレンランドリーの様子。週に6日の無給労働で主に委託の洗濯とアイロンがけを行っていました)

これらの施設すべての記録を洗い出し、敷地内に埋められた遺体を調べ、最終的には敬意をもって埋葬することが正しい道ではないか。今、アイルランドはあってはならない過去の過ちに直面し、答えを模索しています

アイルランドの人々は、カトリック教会が犯したこれらの過ちに憤っています。教会という権力を使い、非人道的な行為が内部で密かに行われていたことに対し、今までずっと押し黙っていた人たちが声を上げ始めているのです。

また、それを周知で黙認してきたアイルランド社会を見直す動きも始まっています。臭いものには蓋をし、見て見ぬふりをしてきたアイルランド人たち。私たちは一体どんな社会に生きていたのか?これからどうあるべきなのか?自問自答の日々が続きます。


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2016.03.30 10:03|アイルランドの文化 / 歴史
聖パトリックの日にちなんで、ロンドンに住む夫のいとこ家族にカードを出そうと郵便局で切手を買い求めました。

あ、イースター蜂起の記念切手。
こちらはアイルランドの独立活動家、ロジャー・ケースメント(Roger Casement)ですね。

イースター切手

イースター蜂起とは復活祭(イースター)の週にアイルランドで起きた武装蜂起で、イギリスの支配を終結させアイルランドを独立に導いた大変重要な歴史の一幕です。
イースター蜂起(ウィキペディア)

イースター蜂起が起きたのは、今からちょうど100年前の1916年。
アイルランドでは、去年の暮れ辺りからあらゆる分野でイースター蜂起にまつわる行事が行われています。国を挙げての追悼式典だけでなく、テレビやラジオといったメディアで数多くの特集が組まれ、子どもたちの学校でもイースター蜂起の歴史的背景を学ぶプロジェクトがありました。

武装蜂起はイースター月曜日に始まり7日間の戦闘ののちに鎮圧されましたが、それがちょうど100年前の今週にあたるわけです。

パトリック・ピアース(Patrick Pearse)やジェイムス・コノリー(James Connolly)といったイースター蜂起の指導者ら16名は処刑されました。

キルメイナム刑務所

処刑場となったキルメイナム刑務所は、現在博物館となって一般に公開されています。

じゃあ、これは?

1916?

息子のショーンが描いた絵ですが、「第一次世界大戦」とあって、イングランドとアイルランドの戦闘機が戦っています・・・。
幼心にも、この二者による対立であったことは理解しているようです。世界大戦は関係ないけどね。

蜂起から100年ということで、連日連夜あまりにメディアが騒ぐおかげで「1916」を聞かない日はありません。私の周りのアイルランド人たちは正直に「もううんざり!」と音を上げています。
今週が終わる頃には少し静かになっていると思いますが・・・もう少しの辛抱です・・。


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2012.02.09 17:49|アイルランドの文化 / 歴史
今年もラグビーの6 Nationsが始まりました。週末はテレビでゲーム観戦の日々です。今年のアイルランドはけがで出場できない選手が多く前途多難ですが、今日は試合前に歌われる国歌をいくつか紹介したいと思います。

フランスやイギリスの国歌はあまりにも有名で皆さんも聞き覚えがあるかと思いますが、あまりメジャーでないスコットランドとウェールズの国歌があまりにも美しいのでぜひ聞いてみてください。

まずはスコットランドの国歌。The Flower of Scotlandという名の歌です。



非常に音楽的です。

続けてウェールズの国歌です。歌詞はウェールズ語で、「わが父祖の土地」などと訳されるそうです。



こちらもとても美しく、個人的には一番好きな国歌かもしれません。

ついでにアイルランドの国歌も聞いてみましょう。「Amhrán na bhFiann」(兵士の歌)です。



アイルランド愛好家の人にとっては人気のある歌で、私も嫌いではありませんがアイルランド人の夫は「まあまあじゃない」と冷ややかなコメント。

実は、アイルランドはこの国歌のほかにもうひとつうたう歌があります。その名も「Ireland’s Call」。



サッカーなど他のスポーツでは「アイルランド」や「スコットランド」などと並んで「北アイルランド」という代表チームがあるのに、ラグビーでは北アイルランドのチームが存在しません。アイルランドラグビー協会が南北の分断以前から存在したことなどが理由ですが、アイルランド共和国の国歌だけでは北アイルランドの市民の士気を反映しないという理由から、1995年のラグビーワールドカップを機にこのIreland’s Callという新しい歌が南北双方を代表するアイルランドの歌としてうたわれるようになりました。
更に複雑なのは、アウェイの試合ではこの新しい歌のみが歌われ、ホーム試合では最初に共和国の国歌を歌ってからこのIreland’s Callを歌う、ということになっています。なんともややこしい。

イギリスに隣接するこれらの国々の歴史は実に悲しく複雑で、今でもやっかいな問題を抱えています。
スポーツの世界では、この国同士の歴史関係を抜きにしたフェアなプレーをぜひ見せてほしいものです。

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望月えりか

Author:望月えりか
書く人。日々の暮らしの様子をエッセイにしてお届けしています。
2004年よりアイルランド人の夫、一姫二太郎と4人でアイルランド西部の小さな村に暮らしています。
アイルランドの自然と伝統音楽に囲まれながらオーガニックな野菜作りと食生活、農家さんの羊毛で糸紡ぎ。アイルランド伝統音楽プロジェクト「ブラックバードミュージック」運営。フィドルを弾いたりフルートを吹いたり。
著書「見飽きるほどの虹 アイルランド 小さな村の暮らし」(出版舎ジグ)
新聞、雑誌等プレスへの寄稿文依頼はirishcountrylife@gmail.comまでお問い合わせください。

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